『木のまち飯能』で"木造"であるということ。

更新日:6 時間前
今年は災害が多いですね。
改めて、建築が出来る事を思考させられる日々です。
今回は、表題にもある通り違った切り口で専門家全開で呟いてみます。
批判とか愚痴ではないですね… "ただただ"素直な疑問です。
読書レベルでとても長いので、興味のない方は今回閉じた方が…(笑)
さて…
先日、飯能のとある小学校の建替えについて、公開情報を目にしました。
新しく建てられる小学校は複合施設で、小学校だけでなく放課後児童クラブ、中央地区行政センターを一体化した、地域の大きな公共施設です。
私はてっきり、飯能という地域性とある宣言を考えれば、木造あるいは木造を主体とした建築になるものだと思っていました。
ところが…2025年3月に飯能市が公表した基本設計では、「RC造、一部PRC造・S造」とされていて地上3階建て、延べ面積約9,000㎡という大きな建築。
そして2026年7月には詳しい設計概要も公表、計画はかなり具体的な段階まで進んでいます。
あ、RC造っていうのは鉄筋コンクリート造、S造は鉄骨造です。
これを知ったとき、建築に携わる者として、ひとつの疑問が浮かびました。
うーん。「森林文化都市」を掲げる飯能市で、なぜこの建物は木造ではないのだろう。
むしろ、飯能という地域にとって非常に大きな公共建築だからこそ、一度立ち止まって考えてみたいと思います。
飯能市は市域のおよそ75%を森林が占めています。

飯能の良さです。そしてこの地域には、江戸時代から木材を供給してきた「西川林業」があり、現在も良質なスギ・ヒノキの産地として知られています。著名建築家もその美しさから利用していますね。
2005年には飯能市自身が「森林文化都市」を宣言しており、その宣言では森林資源を活用し、資源の循環利用を暮らしの中に生かしながら、森林と人とのより豊かな関係を築いていくという方向性が示されています。
つまり森林は、飯能にとって単なる「景観」ではなく、産業であり、文化であり、地域資源です。
さらに興味深いのがここからで、飯能市自身が定めている
「飯能市内の建築物等における木造化・木質化等に関する指針」なんですよね。
この指針では、市が建てる学校や公民館、図書館、庁舎などを「市有施設」と定義したうえで、
一定の例外を除き、原則として木造化を図るという方針を定めている…
ふむ…
しかも「木造化」と「木質化」は明確に区別されています。
木造化って概念として、柱や梁、壁、屋根など、建物を支える主要な構造部分の全部または一部を木造とすることであって、一方「木質化」とは、内装や外壁などに木材を使うこと。
これは結構重要な違いですよね。
たとえばRC造の建物の壁や天井に西川材をたくさん使えば、「木を感じる建築」にはできます。
それにも勿論大きな意味があります。
しかし、それは構造そのものを木でつくる「木造化」とは別の話です。
そして飯能市の指針には、単に木材利用を推進すると書いてあるだけではなく、市有施設については原則木造化と書かれているんですよね。
だから私はこれが公示された際、「はて…?本案件はどういうことなんだ?」ってなったんですよね。
さらに、今回の小学校等複合施設の検討初期の資料を見ると、2023年1月の第1回協議会資料には、施設コンセプトのアイデアとして「木質化・木造建築」という項目が実際に登場している…
その後にまとめられた基本構想にも、「森林文化・環境」という視点が設けられ、
西川材を活用し、森林文化の魅力と価値が伝わる空間をつくること、そして自然環境と調和した環境にやさしい持続可能な施設づくりが求められる、とされています。
つまり、「飯能らしい木の建築」という発想そのものが最初から存在していなかったわけではない…
だからこそ私は木造化について、どのような検討が行われたのだろう。と素直に思ったんですよね。
「まあ、公共施設のような大きな建物を木造でつくるのは難しいのでは?」
そう思う方もいるかもしれません。
もちろん、住宅と学校ではまったく条件が違いますし、大規模な学校には、防耐火、構造、大スパン、耐久性、維持管理、工期、コスト、木材調達など、さまざまな課題があります。
単純に「木造にすればよかった」と言えるものでは当然ありません。
ただ、飯能には2020年に完成した飯能商工会議所があります。
この建築では、西川材による一般的な木造技術に加え、最先端の新旧木質構造技術を組み合わせていて、柱や梁などの構造材にも西川材が使われています。
もちろん、規模も用途的に商工会議所と約9,000㎡の小学校複合施設を同列に比較することはできませんが、少なくとも「飯能の木を、内装材ではなく構造材として使い、現代建築を成立させる」
という試みを、この街はすでに経験しているんですよね。
だからこそ本件も「木造では成立しなかったのか」ではなく、
「木造・RC造・S造・木質ハイブリッドを比較した結果として、なぜ"RC主体"になったのか?」
という過程を知りたいって思うのが地場の建築家では無いでしょうか…?
ここからが、私がもうひとつかな~り気になっているところです。
最近、「省エネ」という言葉はかなり一般的になりましたよね。断熱性能を高めたり高効率な空調設備を使ったり、太陽光発電を設置したりするとか…
これは主に、建物を使っている間に発生するCO₂を減らす考え方です。
建築では「オペレーショナルカーボン」と呼ばれたりします。
しかし、建物から出るCO₂はそれだけではないんですよね。
むしろこっちの方が問題。
コンクリートをつくる。鉄をつくる。木材を乾燥・加工する。建材を工場から現場へ運ぶ。建物を施工する。将来は改修し、最後には解体する…建築物は、完成する前からCO₂を排出しています。
それを「エンボディドカーボン」と呼んでいます。
こうした資材製造や施工などに伴うCO₂を含めて考えるのが、現在世界的に重要視されている
**「ライフサイクルカーボン」**という考え方ですね。
日本でも国土交通省が2026年、資材製造から解体まで建築物のライフサイクル全体のCO₂を評価する制度の創設に向けた法改正を進めていますね。
国交省によれば、日本の温室効果ガス排出量の約4割が建築分野に関係するとされています。
つまりこれからの建築の脱炭素は、「完成後に省エネかどうか」だけでは足りないよ…
って国が認めているんですよね。
では…木造とRC造で本当に違いが出るのでしょうか?
ここについては林野庁の報告書に興味深い研究が紹介されていて、
伊勢市に実際に建てられた延べ407.2㎡の木造2階建て学校をもとに、
同等の建物をCLT造・RC造・S造にした場合のGHG排出量を比較したものがありまして、結果は…
CLT造 168t-CO₂e S造 206t-CO₂e RC造 242t-CO₂e となっているんですね。
(CLT造とは最先端の木造です)
この事例では、CLT造はRC造より30.6%少ないGHG排出量となっています。しかもこの数字って木材の中に既に吸収されたCo2いわゆる固定される炭素の「貯蔵効果」は含まれていません。
もちろん、ここには注意が必要です。
この407㎡の学校と、小学校複合施設は規模も構造条件もまったく違います。
したがって、「木造にすればCO₂が30%減った」と単純に言うことはできませんが、木造であっても木材の乾燥方法、加工方法、輸送距離によってCO₂は変わりますし、RC造でも低炭素コンクリートや再生材などによって排出量を減らすことはできます。
重要なのは、構造形式の選択そのものが、建設時のCO₂排出量に影響するということ。
だからこそ、約9,000㎡もの公共建築を建てるのであれば私は建築家として、
RC、S、木造、木質ハイブリッドについて、建設時CO₂を比較したのだろうか?ということが気になっちゃうんですよ…
この疑問は、" 飯能市だからこそ "さらに大きくさせます。
飯能市は2021年、近隣自治体とともに「ゼロカーボンシティ」を宣言し、2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロを目指しています。
そして市自身がその実現策として森林について「伐って、使って、植える」という循環利用を進める方針を示しているんですよ。
木材利用を拡大し森林によるCO₂吸収・固定を進めることも、国のカーボンニュートラル政策の一つとして位置づけられています。
さらに、先ほどの市の木造化指針そのものが、国の「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を受けて改正もされている…
市は木材利用によって、循環型社会の構築、地球温暖化防止、林業・木材産業振興、森林整備を進めることを目的として掲げています。
ここまで並べてみると、私が感じている疑問が少し伝わるでしょうか…
森林が市域の約75%を占め、「森林文化都市」を宣言し、西川材という地域資源がある。
公共施設は原則木造化という指針があり、「伐って、使って、植える」循環によって脱炭素を進めようとしていて、ゼロカーボンシティも宣言している…
むむむ…
その飯能市が建てる、地域を象徴する約9,000㎡の公共建築。
だから私は「なぜ木造にしなかったのか」という結論だけではなく、「どんな比較をした結果としてRC造を選んだのか」を知りたい…何故なのか?
むむむむ…!気になる。
まあ内装には西川材は利用するんですが、当然子どもたちが毎日触れる場所に地域の木を使うことには大きな価値があります。
しかしながら…木を仕上げに使うことと、木で「建築を支える」ことには別の意味があります。
子供たちの感性、感受性、理解の仕方を侮ってはいけません。
飯能市自身の指針も、その二つを「木質化」と「木造化」として区別しています。
地域の山で育った木が柱や梁になり、数十年間建物を支える。
そして伐採された山には次の木を植える。
山から建築へ。建築から地域経済へ。そして再び森へ。
その循環自体を、子どもたちが毎日通う学校という建築で見せることができれば、
それは単なる「木の学校」を超えた意味を持つのではないでしょうか。
私はここが、一番惜しいと感じています。
学校ではこれから子どもたちは環境問題や脱炭素、森林、地域社会について私たち以上に多く学んでいくでしょう。
もし自分たちの学校が飯能の山の木でつくられていたら、
「この柱は飯能の山で育った木なんだよ」
「木を伐ったところには、また次の木を植えるんだよ」
「森林が育つときにCO₂を吸収して、その炭素は建物の中にも蓄えられるんだよ」
「地域の山と、自分たちが毎日使っている学校はつながっているんだよ」
と会話が生まれる。
教科書だけではなく、学校そのものが教材になる。
森林、林業、建築、地域産業、環境、炭素循環。
それらを一つにつなげられる場所になります。
森林文化都市を掲げる飯能だからこそ、そんな学校があってもよかったんじゃないかな?
私はすごくそう思うからこそこの記事を書いています。
鉄筋コンクリートには、耐火性、耐久性、遮音性、大空間への対応など、多くの優れた特徴があります。
約9,000㎡の学校・行政施設という条件の中で、安全性、コスト、工期、維持管理などを比較した結果、RC造が最も合理的だという判断があったのでしょう。
で、調べたんですが私が確認した公開資料の範囲では、木造・RC造等を比較したライフサイクルCO₂評価が行われたのかどうかは確認できず…検索の仕方が悪いのかも。
行われていない、と断定するものではないですが、同様に木造化を断念した具体的理由についても今回確認した資料だけからは判断できません。
だから、これは「問い」なんですよね。
公共建築は、今後何十年も街に残ります。
特に学校は多くの子どもたちが毎日を過ごし、やがて大人になった後にも記憶に残る建築なんですよ。
単に必要な床面積を確保するための「箱」ではないのです。
その時代、その街が何を大切にしていたのかを形として残すものでもあるんです。
飯能市は森林文化都市であり、そしてゼロカーボンシティでもあります…
市有施設は原則として木造化するという指針も持っています…
ならば地域でも最大級となる公共建築をつくるとき、木造という選択肢をどこまで検討して、西川材を構造材としてどこまで使えるのか本気で検討したのか…
木造、RC造、S造、混構造についてコストだけでなくCO₂排出量まで比較したのか…
そしてRC主体を選択したのであれば、なぜその結論になったのか…
宣言って軽くないんですね。「 重い(想い) 」 です。
木材をたくさん内装に使ったきれいな「木質化された学校」が完成することも素晴らしいことです。
しかし森林文化都市・飯能にとって「木を見せること」と、「森林と建築を本当に循環させること」は、長い市の歴史を見れば同じではありません。
新しい学校はこれから何十年もの間、飯能の子どもたちと地域を支える建築になります。
だからこそ、「森林文化都市の公共建築とは何なのか」…
ちなみに設計者はどのように選ばれたのかというと、
今回は、設計提案を競うプロポーザル方式ではなく、一般競争入札によって選定されています。
一般競争入札そのものは、発注条件が明確で技術的な工夫の余地が小さい業務では合理的な方法なんですが…本件は約9,000㎡に及ぶ複合公共施設なんですよね。
しかも、森林文化、西川材、脱炭素、学校教育、地域交流、防災など、飯能という地域だからこそ考えるべきテーマがいくつもある…
飯能市自身も、プロポーザル方式の対象として「高度な創造性、技術力、専門的な技術又は経験を必要とする業務」や「価格のみによる競争では期待する成果が得られない業務」を挙げています。
ではこの建築の設計者選定において、なぜプロポーザル方式を採用しなかったのでしょうね?
むむむむ…な、何故なんだ…まあ…いいや。
私の普段携わる仕事の規模の建築ではないですけど、一技術者そして一市民としての素直な感情です。
でも、読んだ人には知ってほしいなと思っていつもより長くぼそぼそ。
新しい建物完成は楽しみですけど、モヤモヤ~っとするぼそぼそでした。

